不滅

L'IMMORTALITE

ゾンの呼び声 映画『ゾンからのメッセージ』音響覚書

2018年8月11日からポレポレ東中野にて公開が始まった映画『ゾンからのメッセージ』。川口が音響を担当した作品。


映画『ゾンからのメッセージ』予告編

 公式サイト

call-of-zon.wixsite.com

公開前のスクリーンチェックを経て、初日に全編を映画館で見ることができた。

劇場に掛かって、その鳴りを自分で確認するまで、作品を振り返るのは難しい。ようやくこのタイミングで作品は完成し、観客に手渡される。

ゾンからのメッセージ』の音響について、覚書を書いてみた。

すでに公開された感想に触れているし、記憶が曖昧な部分もある。今の考えであって当時の考えではない部分も多いと思う。あくまでも2018年現在の覚書ということで。

あくまでも私の覚書であって、『ゾンからのメッセージ』の正しい見方を示すようなガイドではない。

大いにネタバレありなのでご注意を。

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【告知】磯谷渚『天使の欲望』日本、2013 2015年11月6日 DVDリリース

(2015.09.26 記)

2015年9月22日 磯谷渚『天使の欲望』日本、2013 c/w 武田慎吾『ファンタズム』日本、2014 @ユーロライブ 一夜限りの上映終了しました。

数日経ちましたが、磯谷渚監督『天使の欲望』のユーロライブでの上映が大盛況のうちに終了しました。2年前に完成したこの作品がこうやって人を集め、熱気のうちにその一回限りの上映を終えるということに感動と感謝を。

スクリーニングも良好で、はじめて関東の皆さんに我々が納得できる形でお見せすることができたと思います。先日の安川有果監督『Dressing Up』でも思ったことですが、

安川有果『Dressing Up』日本、2012 @シアターイメージフォーラム 2 - 不滅

映画祭や発表会と違う、興行という、「お楽しみの場」で上映してこそ映画なんだな、ということを強く思いました。映画は楽しむために、興奮するために見るのであって、品定めをするために見るのではない、ということを自分自身も肝に命じなければと思いました。

先日の『ジョギング渡り鳥』のPFF上映とあわせて、「作品の力を信じる」ということをもっと信じよう、もっと信じなければならぬ、と強く実感しました。全力で面白いと思って作ったものが、なかなか受け入れられないとき、たしかに、受けれなかった奴らはバカだ、全然わかっていない、と、思うけど、そう言ってても始まらないので、自分たちでそういう場を作らねばならない。やるしかないのだ。その考えも新たにしました。

もっとも、私は自分の状況から出来る限りの手伝いをしたまでで、興行を運営した方々には、ただただ頭を下げるのみです。

そして、舞台挨拶で監督から発表がありましたように、

『天使の欲望』国内版DVDが 2015年11月6日 に 発売

されます。セル・レンタル同日リリースです。

 

天使の欲望 [DVD]

天使の欲望 [DVD]

 

ここには超豪華特典映像が合計60分以上。なんと『天使の欲望』本編よりも長く入っております。内藤瑛亮監督(『先生を流産させる会』、『パズル』、『ライチ☆光クラブ』)の編集による予告編はもちろん、メイキング映像、主演の女子高生4名による座談会、本間さん柳さん監督の単独インタビュウを収録。家内制手工業の自主映画、こちらも私が録音・整音しました。

さらに、特筆すべきは磯谷監督の前作にして処女作短編『わたしの赤ちゃん』もこちらも予告編とともに収録という、嘘偽りなしの「豪華」特典。荒削りなスピード感でパンクロックのような映画です。こちらは私はスタッフではなかったのですが、DVD収録に合わせて、プリミティブな力を残しつつも、『天使の欲望』と連続で鑑賞できるように、ボリウムのバランスをとりました。

手作り感溢れる体制になっておりますが、内容は先日の大盛況が保証済み。上映に来た方も来られなかった方も、おすすめです。

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さて、久々にスクリーンで見て、まず一番に思ったことは、早くこの組で新作を作りたいということだった。完成当時は無論全力でやった達成感もあり、個人的にも音のレベルで演出、うまくいってないところの巻き返しが出来た、と思っていたが、うまくいっていないものはうまくいっていない、と確認した。しかし、手前味噌な言い方だが、そのうまくいっていない部分も含めて、この映画のスピード感、力強さを生み出している部分が多いことも確かだ。直したいという欲望は、当然あるのだけど、それは封印して、新しいステージに行きたいと思った。

切り返しに始まり、切り返しに終わるこの映画、アフレコによるゼロ距離のセリフによって、その顔の力強さは存分に堪能していただけたのではないかと思う。聞かせたい音しか聞かせないオールアフレコのサウンドは無駄な説明カットは一切撮らない/撮りたいカットしか撮らない、という方針とうまくシンクロさせることができた。と、改めて思う。一個一個の音に対して、もっとこう録れば良かった、いまならもっとうまく録れる、という後悔はあるが、全体のデザインに後悔はない。少なくとも青写真以上のものは作れた。

保坂和志が 『書きあぐねている人のための小説入門』

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

 

 の中で、傑作の条件として、「作ることを通して作者成長していること」というようなことを言っていたが、この『天使の欲望』は間違いなくそうだった。我々チームはまだまだ成長できると思う。悪しき成熟や洗練とは違う、ひたすらな成長を続けたいものだ。

映画とは恐ろしいもので、あれほどしんどい思いをして作ったのに、喉元過ぎればまた作りたいと思ってしまう。

我々のまだ見ぬ新作にどうぞご期待ください…

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懐かしいものが出てきた

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鈴木卓爾『ジョギング渡り鳥』日本、2015 in 第37回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)企画「映画内映画」 @東京国立近代美術館フィルムセンター

まず、こちらをご覧ください。

youtu.be

特報第二弾を公開しています。

さて、ご報告が遅くなりましたが、去る9月19日の、私が音響をやりました

鈴木卓爾監督 + 映画美学校フィクションコース第1期高等科『ジョギング渡り鳥』

が無事にスクリーニングを終えました。多少低音が強く、台詞が聞き取りづらいと感じられた方もいらっしゃるかと思います。ごめんなさい。調整不足でした。

ツイッターなどで多くのありがたい感想をいただいており、中には個人的に、そうなんだよ、と嬉しくなるものもいただき、また、新たな視点の言葉も頂き、ありがたく、いよいよ、映画が完成したのだな、巣立ち、飛び去っていくのだな(また帰ってきたり、飛び去っていったりを繰り返してくれるのだな)、と思っています。

さて、上映後に発表させていただいた通り、

『ジョギング渡り鳥』は2016年陽春 新宿K's cinemaにて公開

が決定いたしました。

幸運にも今回

また、Twitterアカウント

twitter.com

Facebookアカウント
ジョギング渡り鳥

も始まっております。どうぞチェックしてみてください。

このブログでもお知らせを断続的にさせていただきますが、ここはあくまでも私個人のスペースで、遊軍的にやるつもりにしています。

引き続きよろしくおねがいします。

【告知】9/22 磯谷渚『天使の欲望』日本、2013 @渋谷ユーロライブ 19:30~

私、川口陽一がサウンドデザインしました、

磯谷渚監督『天使の欲望』

が、このたび一夜限りの復活上映されることになりました。

2015年9月22日(火・祝) 19:30より上映開始
場所は渋谷ユーロライブ(元オーディトリウム渋谷)です。


『天使の欲望』予告篇 - YouTube

「第8回田辺・弁慶映画祭」で同じくコンペ部門で掛かった

武田真悟監督『ファンタズム』の併映となります。
こちらの上映は、18:00からと、20:45からの2回上映、入れ替え無しの2本立て上映です。

www.youtube.com

こちら失礼ながら未見なのですが、メインキャストに長宗我部陽子さんを配し、フリードキン『エクソシスト』を思わせるような仕掛けが目を引く予告で、興味を引かれました。見るのが楽しみです。

『ファンタズム』『天使の欲望』一夜限りの二本立て上映!

さて、『天使の欲望』、かれこれ2年前に仕上げたこの作品ですが、私個人にとってとても意義深い作品です。以下、解説というか回想というか…

百合子と沙織が、出会ってしまう。二人はコインの裏表のように、自らの欲望の陰画をお互いの中に見てしまう。もし違うタイミングで出会っていれば、親友になれたかもしれない…、そんな二人の、誇り高き生き様。私流に言うとそういう映画。

 オールアフレコ、つまり現場の音は一切使わず、すべての台詞を、そして環境音や足音などの動作音もすべてを後から収録し、ミックスしていくという、手法でサウンドを構築していきました。これにより、独特のリアリズム、距離感を獲得することができたと思います。すべての音要素を別の後から収録してるわけなので、演出/ミックスの自由度も上がり、実験的なことも試せた。シネスコのスクリーンに浮かぶ彼女らが、貴方の耳元で叫ぶ、その息吹を感じていただければと。

当時、この作品を仕上げることは挑戦だった。単純に、オールアフレコを仕上げるのは時間と手間が掛かるし、そもそも、私は、この依頼を果たしてやり遂げることができるのか、不安はゼロではなかった。でも、1度オールアフレコの作品をやってみたいという欲望はずっとあったので、受けることに迷いはなかった。むしろ嬉しかった。

映画学校の同期の修了制作である、冨永圭祐監督『乱心』(2011)を地震を経て仕上げて以来、この先どうやっていくか曖昧模糊としていた時期(今もそうだけど)、に同校の後輩である監督に声をかけてもらって、早い話やるべきこと、を与えられたので、助かった、という感じがしている。夜な夜な家内制手工業で効果撮りとミックスを共に繰り返し、納得できるまで作業を詰めさせてくれた監督には感謝しています。

この挑戦と、成功がなければ、これから公開する『ジョギング渡り鳥』を仕上げることなど、到底出来なかったと思う。そんな2本が、奇しくも同じ時期に上映されることは、私にとって、とても大きな出来事になるでしょう。

そういう個人的な思いもありつつ、無論、映画としての価値は、作り手の立場ですが、自信を持ってオススメするものであります。映画祭コンペなどではなく、一般公開での上映の意味は、単純にそれが興行で楽しむための場であることにつきます。ひとつ、劇場に足を運んでいただき、映画の豊かな時間にしばし身を置いて見てはいかがでしょうか。

今年のシルバーウイークは、『天使の欲望』と『ジョギング渡り鳥』を見るのが、正しい過ごし方ですよ。

【告知】9/19 鈴木卓爾『ジョギング渡り鳥』日本、2015 in PFF@フィルムセンター 10:30~

私、川口陽一が音響を勤めた、

鈴木卓爾監督『ジョギング渡り鳥』

の公開への動きがいよいよ始まりました。制作に約3年、仕上げだけでも都合2年以上掛けて来た作品なので感慨もひとしおです。

PFF用の特報が公開されています。まずはこちらをご覧ください。


第37回PFF 招待作品部門 『ジョギング渡り鳥』予告編 - YouTube


さて、記念すべき上映第一弾はこちらです。

2015年9月12日より、東京国立近代美術館フィルムセンターで今年も開催される、ぴあフィルムフェスティバル

第37回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)公式サイト

にて、招待作品としてワールドプレミア、宇宙初上映される運びとなりました。

pff.jp

上映日時:2015年 9月19日 午前10:30 上映開始

です。上映後には『M/OTHER』や『H story』の諏訪敦彦監督と卓爾監督によるトークショウもあり、合わせてご来場いただければと思います。

ー入鳥野(ニュートリノ)町。そこに流れる川に集まってくるジョガーたちのゆるやかなコミュニティがあった。そこに突如飛来するもこもこ星人のUFO。しかし人類には彼らの姿は見えなかった。母船が壊れ、帰れなくなってしまった彼らは、地球人たちをカメラとマイクをもって観察し始める…

といった感じのあらすじです。

【東京会場】チケット情報|第37回PFF

前売りチケットの発売も始まっています。

特集企画[映画内映画]の1プログラムです。同じくプレミア上映の長崎俊一監督『唇はどこ?』、さらにトリュフォーの『アメリカの夜』、森崎東『ロケーション』の上映もあるといったプログラムです。とりわけ、森崎の『ロケーション』は、気が狂いそうなほど好きな映画なので、同じ企画内で掛かることが嬉しくてたまりません。合わせて是非見ていただければと思います。

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映画美学校という学校に近年新しく開設された、「アクターズ・コース」の皆とともに、時間をかけて、作り上げてきました。

私は音の立場からの1スタッフにすぎないと思われるかもしれませんが、この15年来、映画に対して培ってきた、思いが込められている映画であり、また、この映画はそういう器であり、「私の作品だ」と胸を張って言い切れるものになっています。

アクターズの彼らが、出演だけでなく、制作全般から劇中での撮影・録音にいたるまで、映画作りの全てを自分たちでする。という、無謀で大胆な企てです。私はそれを途中から、サポートし、それを「映画」に仕上げるという立場でした。ゆえに、「普通」の映画作りでは得られないような映像と音響を作ることが出来ました。今はもう彼らの一員であり、仲間である、と思っています。そんな彼らは、今、この作品を上映するための活動に既に動き出しています。現場だけが映画作りではないことを体で体験しています。

これからもこのブログやツイッターでもお知らせさせていただきます。中身について深く突っ込んだ議論もいずれ出来たらいいなと思います。

あらためて、鈴木卓爾+映画美学校アクターズ・コース1期による『ジョギング渡り鳥』是非ご覧頂ければと思います。よろしくお願いいたします。

安川有果『Dressing Up』日本、2012 @シアターイメージフォーラム 2

2年前、CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)東京上映展2013でこの作品を見た。少し長くなるが、そのときの感想をまず、貼付けてみたいと思う。初見の感想、というやつだ。果たして、2年ぶりに見て、私に変化はあるのだろうか…

2013年5月のツイート。


  ※上映後に沖島勲監督と安川有果監督との対談があり、そこで沖島監督は、母親は実は生きていた、ってのは妄想で、やはり死んでいた、と安川監督に聞き、えー、と残念がって言ったのだった。私も全く同感だった。


 

 


さらに別の日にも


 

 

 

 

さて、今回、内容を知った上で、2年ぶりにスクリーンで再会してみた。上記のことにとらわれていて、他の要素について飛んでしまっていたが、このようにこだわってしまったのは、ひとえに、私がこの映画に惹かれたからに違いない。

単純にこの映画は短すぎたのだ。中編映画の常であるが。

今回、中盤までの演出の方がむしろ面白く見れた。娘の、シーンごとに見せるいろいろな表情が、自然さと芝居と、正常と狂気と、静寂と暴力と、の間を往復している感じが、瑞々しく捉えられている。いじめっ子を殴ることで、クラスのバランスが崩壊していくさまも、シンプルに描かれている。いじめられっ子も、そのことにアイデンティティを依っていたという細やかな描写と、娘のそれを指摘も小気味いいし、切り付けられた友達が最後教室で、少し変われた、というのも。娘がこの学校に転校して来たことによって起きたさざ波が、このクラスに変化をもたらす様が、実に立体的で、見事だ。いじめなどを正面から扱った学園ものでは、逆に難しくなってしまうのだろうか。

なかでもやはり、特筆すべきは父親(=鈴木卓爾)だ。

2年前にもツイートした通りなのだが、どこに身を置いても自分を異物と認識しているかのような立ち居振る舞い、娘との距離の取り方、典型的ではない、ただひとりこの娘の父親として、この世界に存在している感じ。父親もまた、別個の怪物であるに違いない。(「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」ニーチェ

今回新たに気になったのは、言葉だ。この父親、おそらく出身は関西ではないのだろう。標準語に時々混じるたどたどしい関西弁。娘のネイティブな大阪弁との差異、この音韻の温度の差、これがこの父娘の関係を密かにうまく表象していると思った。何かを封印したような言葉遣い。関西弁話者には、非ネイティブ話者の抑揚、音韻のわずかな違いにも、ひどく違和感を感じる。それは、単純に無理している感じに聞こえる。しかし、この父親、標準語の喋りも、なにかネイティブじゃない感じがする。標準語もまた努めて喋っているように。クライマックス前の娘との対話が言うように、「本当はどう思ってるか」ということは、一生封印する決意のパロルだろうか。

この断絶が、親子といえども、絶対的な他者である、という事実を突きつけてくるようだ。

だからこそ、(しつこいけど)今回はフィジカルな事実ではない、と、前もって分かった上で見た、山小屋のシーンは、やはり、残念だった。

しかし、翌朝タートルネックを着ていない父親の首の傷に、今回は、そうか、昔、この男は…、と感慨深く思うことが出来た。

だからこそ、娘のエピローグはどれも、上品に纏まりすぎていて、やはり残念。絶対的な他者との対峙の果てに、たどり着く場所が、今でも見たい。

これは単純に、この祷キララ=育美に、作者は優しすぎたのではないか。