不滅

L'IMMORTALITE

細田守『バケモノの子』日本、2015 @新宿バルト9 9番スクリーン

王道を行っている。ただしそれは「映画」の王道ではなくて、「少年漫画」の王道かもしれない。

たしかに、冒頭の母親が交通事故死し、父親は離婚していて音信不通という状況説明が酷いのでつまずきそうにはなる。熊徹の状況説明も同様だ。今回、あえて悪かった点(結構たくさんあるのだけど)にはあまり触れたくない。
メインプロットである熊徹と蓮=九太との時間が始まるとノレた。もうノレてしまったのだから、半ば仕方ない。
同ポジションの芝居を反復させるという細田守のいつもの演出が、2人の対等な師弟関係、学ぶ=真似ぶという修行の要とマッチしていていた。いつもの手癖から一段上のレベルに昇華されていたと思う。私は2人の呼吸が生み出す空間が好きになってしまった。これは、役所広司宮崎あおい染谷将太の芝居によるところも大きいだろう。
豚と猿の説明台詞はほとんど気にならなかった、というか、聞こえてなかった、聞いていなかった。(だから、これを以ってダメだと断じるのは、私にもよくわかるのだけど、少しもったいないかな、とも思う。)
王道である、と言った理由は、少年の成長物語だからである。蓮=九太は少年漫画の主人公のように途中マイナスに転じることなく、常にプラスに向上している点である。九太の弱さや負の可能性を一郎彦や楓といった他の人物に託しているのがうまい。(このあたりの解釈・分析は荒木飛呂彦荒木飛呂彦の漫画術』を最近読んだので、それに依るところが大きいと思う)
という点だけではなく、熊徹のそれでもあるという点、両者は互いに教えあい、教えることを通して、また学ぶという点が細田守の表現とマッチしたし、犠牲となるヒロイックな死を九太ではなく熊徹が引き受けることで、蓮が前向きに将来に向かう道筋をつけることができた。
さらに、蓮と、その実の父親が学びと成長の物語を発展的に反復していくだろう。
私は見終わった後でまず思い出したのは、『ワンピース オマツリ男爵と秘密の島』だった。それが嬉しかった。ハウルを降板してから時かけまでの間が無かったことのようになっているように感じられることもあったから。オマツリ男爵もまたプロット構成にはかなりの難はあるものの、ジャンプ的な主人公へのスリリングな批評的作品で、当時はこれぞ細田守の真骨頂だと思った。(だから、おジャ魔女どれみの「どれみと魔女をやめた魔女」という大傑作が予告していた『時をかける少女』にひどくがっかりしてしまった)
この『バケモノの子』はオマツリ男爵をきちんと更新したと思う。オマツリ男爵同様に瑕疵には目を瞑っても、というか、気にならないほど、好きだということだ。

 

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