不滅

L'IMMORTALITE

godspeed you! black emperor / あるいは、三拍子の宇宙 その1

初めて聞いたのがいつだったのか、実は思い出せない。確か2000年前後だったと思う。2001年の初来日の心斎橋のクアトロにいって凄まじく感動したのを良く覚えいてるから。
友人から薦められ借りて、最初に聴いたのがこれだ。

Slow Riot for New Zero Kanada

Slow Riot for New Zero Kanada

 

 文句無しの最高傑作EP。ちなみに私がプロフィール欄とかによく使う「slow riot from new zero tokio!」という文句はこれの捩り。
『MOYA』と『BBF3』の2曲。これを何となくデッキで掛けっぱなしにしているうちに、心と体に染み込んでしまったようだ。初めて聴いた瞬間にピンときたというような記憶はない。当時は「ポストロック」系などほとんど聴かず、グラインドコアばっかり聴いてたし(AxCxとか…)。しかし気がつけば酒を飲んで頭をグラグラさせながら聴きまくっていた。今でも一番好きな曲はと問われれば『MOYA』と答える確率が高いだろう。三拍子のゆったりとしたリズムのミニマルなリフレインに孕まれているスリリングさと力強さと知性。バイオリンとチェロの逼迫していながら滑らか響きに、すんだギター、最後にはグロッケンまで。それが螺旋を描くように増幅していき、聴く者の血を静かに沸騰させる。


Godspeed You! Black Emperor Live at The ...

2001年のライヴの感覚が蘇ってくる。2013年の2度目の来日ではこの曲は演奏しなかった。近年になってプロショット・プロレコーディングと思われる質の高いライブ映像も出てくるようになった。(かねてからブートレグは認めているので(レコーダーを没収しようとした会場側のセキュリティとメンバーが喧嘩になったこともあるらしい)、YouTubeなどに映像は上がってはいた)映像を見れば分かる通り、gy!beは基本8名のメンバーの他に、Karl Lemieuxというメンバーがおり、16mmフィルムのループを三台の映写機で照明は焚かないステージ上に映写している。彼の映像作品が確か去年あたりにイメージフォーラムの特集上映で掛かったらしいのだけど、後で知って後悔している。

さて、借りたCDを返し、リリースされている盤を買うまで時間はかからなかった。

Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven

Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven

 

 二枚組全4曲の大作。タイトルも素晴らしく、私の生きる指針のようでもある。これはもう買って帰って来てデッキにCDを放り込んだ瞬間から、ビシビシ来た。最初は1曲目の「storm」の冒頭"gathering storm”が一番ピンときた(「MOYA」と相似形の雰囲気もあって、単純に音がだんだん厚くなって壁になっていく様、その中にも爽やかさを感じる春の嵐のような曲)(自主映画に無断で使用した)が、その時々によって違う。例えば今は3曲目「sleep」の中の"Monheim"の悲鳴か叫びか嗚咽かエクスタシーかそのどれか/あるいはすべての感情を含んだギターの音色が好きだ。ほかにも、4曲目「 Antennas to Heaven」の"She Dreamt She Was a Bulldozer, She Dreamt She Was Alone in an Empty Field"も音もタイトルも切なさと希望がある(gy!beは"HOPE"という単語を強く使う。ライヴでもこの単語のシネカリグラフィが必ず映写される)。

Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven - Wikipedia, the free encyclopedia

このように、gy!be組曲のような形式で曲を構成しているので、アルバム全体で一曲とも捉えられるし、一個のトラックもいくつかのパートで構成されていもいる。

そして、その頃初の来日ツアーが組まれることを知った。

www.livefans.jp

インターネットは本当に便利だ。日付やセットリストはもう忘れたな、と思っていたら、こうして確認することが出来た。アンコール前のラストに「MOYA」をやって、本当に頭が真っ白になった。アンコール中、今はもうメンバーではないブルースが肩からスネアを提げてフロアを練り歩いていた。知らない曲も何曲かあって、それも良かった(gy!beは新曲を作ってリリースという訳では必ずしもなくて、セッションを重ねながらライヴレパートリーにどんどん入れていき、あるタイミングで音源に入ったり、まだ入らなかったりする)。

当時はポートレイトも一切撮らせない、商業誌のインタビューも受けない、音源以外のいかなる商品も売らない(これは今でも。Tシャツが欲しければ自分で作れと言っていた)というアティチュードだったので、初めて生の肉体を持ったメンバーが普通の人間で、楽器を奏でている、ただそれだけの事実にいたく感動した(バイオリンのソフィさん美人だなあ、とかも思った)。

ライブのほとぼりも緩やかに持続しているなか、早々と新しいアルバムがリリースされた。

Yanqui Uxo

Yanqui Uxo

 

 先のライブで聴いた曲も入っていて、それと分かる。リリース前からの情報で、今回はセルフプロデュースではなく、あのスティーブ・アルビニをレコーディングエンジニアとして迎えると知っていたので、期待は高まるばかり。

果たして、たしかに、良いアルバムだった。だが、メランコリックな中にもあった”HOPE”の成分が見えなくなっている気もした。

アルビニの音作りがソリッドすぎるから?(事実gy!be側はアルビニの仕事が気に入らず、カナダに戻ってから自ら再ミックスしたとも聞いたきがする)ジャケットなどのアートワークが直接すぎるから?

それまでは暗喩、隠喩にとどまっていたのだが、このアルバムではタイトルの通り、アメリカ批判を全面に押し出し、裏ジャケにはチャート図が描かれていて、このCDに払った金が軍需産業に流れていく流れが描かれていた。

音楽はその意味内容があったとしても、その言葉ではない抽象性故に特別な価値を持っていると私は考えるが、もともとパンクでアナキストの彼らは本気で音楽の力で世界を変えようとしていた、のだろうか。

このアルバムに関する私の当時と今の「印象」は現時点での振り返りでしかありようがないので、逆に、ジャケットのミサイルの写真から、ああ、このビートの連打はミサイルが落ちる音だなあ、と、本人たちが実際にそう意図したとしても、よけいな感じ方をしている、かも知れない。

などと、当時、考えていたか、もはや定かではないが、そんな中、翌2003年にgodspeed you! black emperorは活動休止を発表した。

 

その2

miro41.hatenablog.com

 へつづく…